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名古屋高等裁判所 昭和35年(ラ)121号 決定 1960年9月08日

抗告人 杉本信之

主文

原決定を取消す。

理由

抗告人は「原決定を取消す。名古屋地方裁判所昭和三四年(ケ)第一九五号不動産競売事件につき抗告人の別紙目録に対する競落は之を許可する。」との裁判を求めその抗告理由として別紙の通り申立てた。そこで、審理するに、名古屋地方裁判所が同庁昭和三四年(ケ)第一九五号不動産競売事件につき昭和三十四年九月二十一日の競売期日において抗告人は別紙目録記載の物件の最高価競買人となりたるところ同庁に対し佐藤享より強制執行異議の訴を提起し競売手続停止の申請をなし同庁は之をいれて同年七月十五日右佐藤享に金十三万円の保証を立てしめ前記競売手続を本案判決あるまで停止する旨の決定をなしこの決定を受けて原裁判所は同年七月十九日民事訴訟法第六百七十四条、第六百七十二条を適用し抗告人の競落を許さない旨の決定をなしたことは記録上明である。然しながら本件競売手続停止決定は前記の如く単に本案判決言渡ある迄の一時の停止を命じているのに過ぎないのであるからこのような場合は競落の許否の裁判をなすべきではない。若し然らざれば、抗告人の主張する如く最高価競買人は折角取得した其の地位を失うこととなり極めて不合理の結果となるからである。民事訴訟法第六百七十四条第二項、第六百七十七条は右の如く一時的な停止の場合を除外して制限的に解すべきものと考える。

そうすると本件は競落不許の決定をなすべきでなく前記強制執行異議事件が完結するまで競売事件は前記競売期日の手続の終りたるままの状態において停止しておくべきものであるから原審が漫然競落不許の決定をなしたのは違法であつて取消を免れない。尚抗告人は更に抗告人に競落を許すべきことを求めているが本件の場合競落を許可すべきものでないこと前記説明に照し明である。

以上の理由により民事訴訟法第四百十四条第三百八十六条に従い原決定を取消すべきものとし主文の如く決定する。

(裁判長裁判官 県宏 裁判官 越川純吉 裁判官 奥村義雄)

抗告の理由

一、名古屋地方裁判所が昭和三四年(ケ)第一九五号不動産競売事件につき昭和三十四月九月二十一日別紙目録物件を抗告人において競落をなしたるに対し同庁へ佐藤享より強制執行異議の訴(同年(ワ)第一、一二六号事件)を提起し之と同時に競売手続停止の仮処分命令申請(同年(モ)第一、三八八号事件)を為し之に基き同年七月十五日申立人に金十三万の保証を立てしめ前記競売手続を本案判決のあるまで停止する旨の決定をなし更にこの決定を受けたる競売裁判所は同年七月十九日民事訴訟法第六七四条第六七二条を適用し前記競落は之を許さない旨の決定を為し同年七月二十一日右の決定を抗告人に送達した。

二、然し右の決定は次の理由により違法なものである。

1、競売手続の停止を求めるための昭和三五年(モ)第一三八八号仮処分申請事件における申請人の申請の趣旨及び裁判所の決定の主文のどこにも競落不許可を求める趣意は窺知し得ないのに競売裁判所は之を拡張解釈して不許可の決定を為したるは判断を逸脱した違法がある。

2、民事訴訟法第六七四条第六七二条には競売裁判所が競落不許可の決定を為すべき場合を列記しているが

競落のありたる後抵当権実行をなさんとした競売申立人の抵当権及債権につき、競売申立後、申立人より先順位の抵当権並に所有権を取得した第三者が

その存在を争ふため強制執行異議の訴を提起し競売手続の停止を求めたる仮処分申請をなし、裁判所が之を許容して競売手続の停止決定を為したる件に対し競売裁判所の採るべき措置については規定がない。

3、従つて理論上より之を解明するより他に途はないと考へる、抗告人は、

イ、仮処分決定に依り競落まであつた競売手続の停止があつた場合、競売裁判所が直ちに競落の不許可決定を為したるときにその及ぼす影響は実に大なるものがあつて僅かな仮処分保証金のみでは償ふことのできない損害を競売申立人並に競落人に及ぼすことは明らかであるのに前述の如く停止決定を飛躍して競売開始前の状態になさしめることは、当事者の利害を一方のみに偏した取扱いをなし、且つ訴訟手続を煩雑なものとなして徒らに遅延せしめる結果となることは法の目的とするところではない。

ロ、或は昭和三五年(ワ)第一、一二六号訴訟事件並に同年(モ)第一、三八八号仮処分事件の内容及び昭和三四年(ケ)第一九五号競売事件の記録を閲覧するに、

右競売事件は当初国から提起した昭和三三年(ヌ)第三九三号第一番抵当権者株式会社幸福相互銀行から提起した昭和三四年(ケ)第二〇一号事件とが併合され後日後者の二件は取下がなされ本件のみが残つたものである。その取下後右第一番抵当権者の有していた抵当権及び代物弁済予約に因る所有権移転請求権保全の仮登記の権利を佐藤享が譲受け第一番以後に、抵当権設定をなした本件競売申立人と他の次順位の抵当権者にいずれも第一番には対抗し得ないから、抵当権設定の登記手続を抹消せよと訴を提起し之に基いて競売手続停止決定を得たものであるが、

その当否は俄かに即断し得ない幾多の争点を包含していると信ずる即ち

譲渡人である幸福相互銀行は抵当権の実行を求めていたものであり之が取下を為したのは第三者が代位弁済をなしたか債務者の連帯保証人が弁済をしたものであるか、或は是等の弁済が代物弁済の法律上の性質から第一抵当権者は消費貸借契約上の履行として金銭の支払を受けたものであつたか或は既に代物弁済によつて消滅していた筈の債権を再び消費貸借と更改したものかについてその事実関係を確定するためには多く争点があるべく一方的の書面の審理のみにては、判断し得ないところであり、抗告人としては表面上より解するも譲渡の効果は疑わしいものと信ずる。

ハ、競売裁判所が右の如き実体法上の争ある事実関係を即断して競落不許可決定をなしたものとは考えられないからその決定は競売手続が進行し、競落のあつた場合でも仮処分決定にて手続の停止があつたときは事実関係の有無を問うことなく一律に不許可決定をなしたものと解するより他はないが、そうだとすれば原決定は不動産競売手続の本質を誤り不許可決定のなし得べき場合を規定せる民事訴訟法第七三四条第七三二条の解釈を誤つているものと信ずる。

要は若し仮処分決定にて競売手続の停止があつたときは之に対応する決定をなせば足りるものである。若し之を逸脱したるときは後日仮処分申請人の敗訴となりたるときはこの違法なる不許可決定のため競落人に不測の損害があつたときは何人に対して之が賠償を求め得るか裁判所は単に競落保証金を返還すれば事足りるという問題ではない。

三、以上の点より原決定の取消と競落許可の決定を求め若し競落許可の決定を不適当とされるときは昭和三五年(ヮ)第一一二六号強制執行異議事件の判決のあるまで競落を停止する旨の決定をされたく本抗告に及んだ次第であります。

尚本件と類似の事件にて東京高等裁判所の決定があると聞いています。

目録

名古屋市中区伊勢町壱丁目弐番

一、宅地 六拾五坪壱合六勺

同所弐丁目弐番

家屋番号第弐番の四

一、木造瓦葺弐階建店舗付居宅 建坪 拾八坪五合 外弐階 六坪弐合五勺

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